第三章 ふたたび不信感

小学校のときに父に連れて行かれた床屋も距離が遠いせいなのか、いつしか行かなくなった。それからというもの再び父によるバリカン生活が続いた。
中学生になって、それなりにカッコつけたい年頃になったからかどうなのかはすっかり忘れたが、また床屋に行くようになった。その床屋は夫婦で経営している町の床屋。父が昔、先代が経営していた頃に行っていた店。そこの店はもっぱらダンナがハサミを入れているはずだったのだが、おれが行くと、なぜかハサミを持つのはカミさん。この店は一見さんお断りなのか?しかもそのカミさんが恐ろしくヘタクソ。免許を持っていないのかと思わせるほどの腕前。おれの髪型は不本意ながらソフトモヒカンへと仕上がった。当時としてはあまりにシュールな髪型である。ぱっと見、プロのような手さばきと顔つきなのが余計に腹が立つ。出来上がったらヘンテコな芸術。行くたびに違うその仕上がりは、まるでシェフの日替わりメニューである。
数回通った後、おれはある仮説を立てる。「ひょっとしてコイツらは、おれの頭を実験台扱いしているのか?」それに気づいたと同時におれの脚はそこへ向かうことを拒否した。こうして床屋に対する不信感は否応なしに再燃するのであった。